銀のしずくふるふる 金のしずくふるふる

「はあ?」

「8本目のイナウを受け取れば、それが跡取りよ。まあ、そんな騙されたみたいな顔をするな。
わしはもう、ほんとうに限界なんじゃ。引退を考えてから5年も頑張ったんじゃからな。もう休みたい。ぼろぼろじゃ」

正婆はそういうと、みるみる、着込んでいた服をぬいで、民族衣装一つだけになった。

「そんな情けない顔をするな。やらんとならんことはだいたい周りが教えてくれる。ほんとうに嫌になってきたら必死に次をさがせ。そうすれば代替わりできる」

「正婆が教えてくれるんじゃないんだ」

俺の言葉はかなり間抜けだった。

「わしは最後のお勤めがある。見ろ」

俺は正婆が指でさした祭壇の後ろのほうを見た。

どす黒い雲のような塊が、たぶん、めぐらしてあるのだろうみえないシールドを、破ろう、破ろうと何度もぶつかっている。

その姿は映画かなにかでみたエイリアンの侵略の様子を彷彿させた。

「あっちもじゃ」

今度は正婆は会場のほうを指でさした。

俺はそっちに顔をむけるなり、ひっと小さく叫んだ。

祭壇の後ろからきているのとまったく同じ黒い塊が、ものすごい勢いで膨れ上がる雨雲のように会場の上空をみるみるうちに覆っていっている。

「もうそろそろ限界じゃ。あれが裂けて落ちたら、いくら‘ここらへん’のものでも、無事でいられるかの保障はできん」

正婆はそういうなり、さっき抜き取ったうちの3本のイナウを手にもった。

そして、眠っている舞のそばにてくてくとやってきて、舞の顔周りかざられていたイナウを一本、すっと引き抜いて自分の髪にさした。