銀のしずくふるふる 金のしずくふるふる

「おまえの父親と離縁したくなかったからじゃ」

「離縁?」

「そうだ」

正婆は6本目のイナウを首の下から抜き取った。

「トゥークの任につくものは、独身でなければならんのだ。だから、結婚して子をなしていれば離縁して、戸籍上は独身となる」

「どうして?」

「昔からの決まりじゃ。たぶん、形だけでも神と結婚している、というのが必要なんじゃろうな。あくまで形式状のことじゃ。離縁しても元夫や子供と一緒に生活していてかまわんしな」

「なのに、母さんは断ったんだ」

「そうじゃ。離縁は絶対にできんといった。どんなに形式だけのことだからと説明しても、絶対にうんといわなかった」

正婆は7本目のイナウを腰のあたりから外した。

「どんなことがあっても、おまえの親父との縁は切らないと言い張った。それで、邪が増して、バランスが壊れて、弾かれた。イヨマンテのあとで。わしももう年とっていてな、うまく制御できなかったんじゃ。だから、そういうためにも、力のあるトゥークは絶対に必要なんじゃ」

正婆は8本目にいなうを左腕のひじからはずすと、俺に渡した。

俺は、あ、はい、っという感じで受け取った。

母さんの話に心を奪われていたから。

トゥークになるよりも、親父との正式な縁を守りたかった母さんの気持ちになにもかもを奪われていたから。

「あいや、受け取ったな、淳。これでおまえは次のトゥークだ。あいや、よかった。おまえ母親ほど頑固ではなくて」