銀のしずくふるふる 金のしずくふるふる

でも、桜井が指し示したやつはちょっと様子が違っていた。

たしかに形や質感は雲に似ているのだけれど、色が違うんだ。

真っ黒だ。

それもそこに、ぽと、っと墨を落としたような黒。

アインシュタインがいった、宇宙のブラック・ホールっていうのはああいうんじゃないか、って思えてしまうほどの、底の無い、引きづりこまれそうな、真っ黒。

「なんだか、超怖くない?」

ホッカイロをひたすらふりながら、細く短い眉をひそめる桜井に、俺はまともな返事をかえすことができなかった。

邪だ。

一人、口の中で、呪文のように繰り返していたからだ。

正婆がいっていた、溜まり過ぎてしまった、邪。

俺にも桜井にも、だれにでもあって、それが山の背と内の川、外の川の間に溜まっていく、邪。

ほかの地域からも寄ってきて、もう限界ぎりぎりまできてしまっている、邪。

親父がメコンノマコイの木を探しにきたときに、こんなところまで崖がくるなんて、と驚いていたけれど、あれは、邪が侵食してきていたからだ。

なら、この会場の斜面もその侵食によってできたものなんじゃないだろうか。

祭壇の後ろで止められているあれは、大人たちの力であそこまで交代させられたからじゃないんだろうか。

俺は、佐藤と木崎を呼び出したかった。

呼び出して問いただしたかった。

大人たちは言葉を濁しても、あいつらなら本当のことを教えてくれるはずだから。

「なんだか、雨も降ってきそう。いつもは絶対に晴れてるのに。今回のイヨマンテってなんだか不気味だね」

横で桜井がぶつぶついうのに、俺は、そうだね、としか答えられなかったけれど。