「・・・渡部殿、ご心配ご無用!この一件、それがしの目で見た分けではないので、差し出がましい詮索はせぬわ!」
 小心どもの一人が言った。
「・・・修理の父の海道新右衛門は儀太夫殿の配下であったであろう!・・・お役ご免にしたとは言え、ある意味、御身にも責はあるぞ!」
「何!」
 最も歳を取っていて、先代について戦場を駆け回った儀太夫は煙たがられたが、その度量と潔癖さは誰もが一目置いている。日和見主義の取り巻きにとっては、怒らせてはならない男だった。
 ここは理路整然と物言わねばならないと、筆頭家老、渡部は必死に考えた。
「儀太夫殿!修理は出奔前に静音と一夜を明かしたと言うではないか!静音は出奔を止められなかった。止められていれば、かような騒ぎにはならなかったはず!ということは、修理は静音と契りを結ぶと称して静音を辱めたのではないか?」
「・・・」
 儀太夫は答えられなかった。
「・・・静音には今、謹慎させておる」
 山県伊豫守(やまがた・いよのかみ)が太った身体を揺すって言った。刀を奪われた次郎三郎の父である。
「内藤殿が静音を小姓に欲しいと我等に伺いを立てて居る」
「!」
 渡部伯耆が勧める様に言った。
「・・・それが良い。内藤家の娘とでも縁談を組めば、儀太夫殿の全ての御子は家を持ち、この先安泰じゃ」