「私を騙して逐電した海道修理を討ち果たしたく思います」

「意趣返しの旅に出ると言うのか?」

 静音の姿勢を正した沈黙はその決意を示していた。
 儀太夫が叫んだ。
「馬鹿者!その様なことを!」

「ま・・・待て、儀太夫。静音も思いあまっての事じゃ。・・・だが、静音、それは赦すことは出来ぬ。この件、誰も意趣は持って居らぬ。そなただけでは上意討ちの許可など出ぬ」
「それは修理を討ち逃した方達が腰抜けだからでしょう」
「静音!言葉が過ぎる!」

 内藤は諭す様に静音に言った。
「良いか・・・気を落ち着けて考えるんじゃ。儀太夫の・・・古性家の名を汚すことはするな。忘れるんじゃ」

 部屋で一人になった静音は考え続けた。確かに自分の為に家の誉れを傷つけることは出来ない。兄も姉にも迷惑は掛けられない。
 涙が独りでに出た。