ドンッ

丁度保健室の前。

考え事をしていた俺に、誰かがぶつかってきた。

フワッと鼻をつく、甘い香り。

この香り……。


「わっ!ご、ゴメンなさい!!ちょっと考え事してて……」


俺が見下ろすのと、伊織が見上げるのは、同時だった。


「「……あ」」


呟いたのも、同時。

気まずい雰囲気が、辺りに漂い始める。

居たたまれなくなったのか、伊織が先に口を開いた。


「あ、あの、わたし、急いでるんで……」


なんとも、ベタな言い訳だ。

それが、伊織らしいっちゃ、そうなんだけど。

……あーあ。

こんなに、俺ン中、伊織だらけじゃん。


「……待てよ」


横を通り過ぎようとした伊織の腕を、咄嗟に掴む。

伊織の肩がビクリと上下する。

二人とも、顔も合わせず、その状態のまま。


「……謝っても、ダメだろうけど。……ゴメン」


俺は静かにそう言う。