「……からかっただけ」


気付けば、そう、口にしていた。


「……か、らかった……?」


伊織の呟きが、悲しそうに聞こえる。

俺は口元に、微笑を浮かべる。


「そ。そういうこと。ゴメンね、本気にした?」


ガタッと、隣から物音がした。

続いて、シャッとカーテンが開け放たれる。

そこには伊織が、泣きながら俺を見下ろしていた。


「……ヒドイです……波留先パイは……」


泣くなよ。

ムカツクんだよ。

伊織は唇をグッと噛み締める。


「……波留先パイなんか、大ッ嫌いです!!!」


泣き叫んでから、伊織は保健室を飛び出していった。

よっぽど、追いかけたかったけど。


「……ンな資格、ねぇよなぁ……」


両手で顔を覆い、力無く吐き出す。

バカだよ、俺は。

アイツが信じやすくて、傷つきやすくて、泣き虫なのは、誰よりも知ってるはずなのに。

ムカツクのは、自分だ。

……そうか、そう言うことか。


「今更かよ……」


気付くの、遅いって。