遠くで聞こえたチャイムの音に、俺はゆっくりと目を開けた。

開け放した窓から差し込む光は、オレンジ色に染まっている。

ぼんやりする視界のすみに、何かが映る。

それを見て、一瞬心臓が止まるかと思った。

それは、健やかな寝息を立てて眠る、伊織だった。

そっか、そう言えば、コイツ、ムリヤリベッドに入ってきたんだっけ。

思い出してから、もう一度伊織を見る。

俺にピッタリと寄り添って、小さな身体が上下している。

どうやら、お互い向かい合わせに眠っていたようだ。

まぁ、そうしないと、たぶんベッドから落ちているだろうけど。

サァッと、夕方の風が、保健室に舞い込む。

伊織の髪の毛が揺れ、甘い香りが鼻孔をくすぐる。

……無防備な寝顔。


「……ムカツク」


口ではそう言いながらも、俺はフッと微笑む。

あーあ、狂ったに違いないよ、俺は。

思いながら、俺は伊織の前髪を持ち上げ、おでこにキスを落とす。

ホント、ムカツクよ、伊織。