音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~





「ふーん、いいなー」


「止めておいた方がいいと思うよ。 痛いから」


出来れば二度と、乗りたくない。


「理央ちゃんも何か飲む? 寒かったでしょ?」


「うん、着替えてくるから…… コーヒー、お願い。 ミルクと砂糖もよろしくね」


「了解っ」


スカートを翻して、パタパタ階段を登っていく音を聞きながら立ち上がる。


キッチンに入り、理央ちゃんのコーヒーを用意する。

コップを置き、インスタントコーヒーを取り出そうとしたら、目の前が揺れた。


「―――― っと」


手に何も持っていなかったのが幸い。

急にめまいを起こした。

シンクに手を着き、なんとか転ばずに済んだが……。


フラフラする。


――― コトンッ。


一度、手にコップをもったが、めまいがひどく元の位置に戻す。


「まおちゃん?」


「あっゴメン、まだ淹れてないや」