音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「――― っ……」


時間が、止まったのかと思った。


「……… どうしてわからないの?

あんなにも樹くんはまおちゃんに優しくしてくれていたじゃん。
毎日、樹くんと一緒にいたんでしょ?

どうして…… 気付かないの?」


「………」


理央ちゃんを掴んでいる手から力が抜けていくのを感じる。


「まおちゃん、最悪だよ」


いっくんがあたしに優しかったのは、あたしの耳の調子が悪いからじゃないの?
体が弱いから……


いつもあたしを助けてくれていたのは……
――― あたしを、好きだから?



「樹くん、いっつもまおちゃんを見ていたんだよ。

家に遊びに来ても“まお”“まお”って言っていたじゃん」


「………」


信じられない。
信じたくない……


だって、あり得ない……


いっくんがあたしを好き…… だなんて。