音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

…………。


――― ピュー。


冷たい風が体を包み込んだ。


「家、入ろう」


こんな事、考えるのは辞めよ。
あの、いっくんだよ。


このあたしを好きになるなんて無いよ。




「樹くん帰った?」


「帰ったよ」


お風呂上がりの理央ちゃんに会った。

頬が赤く染まり、毛先から雫がポタポタ落ちている。


「……… どうしたの?」


「あー……」


理央ちゃんに聞いてみようかな?


いっくんが言ったあの言葉。


『――― 抱き締めたかった』


『――― 手を繋ぎたかった』


これってどういう事なの?


「……… それ、マジメに言っているの?」


「うん、マジ」


マジじゃなかったらこんな事、理央ちゃんに聞くわけないじゃん。


いっくんの言葉。 行動。 気持ち。


――― 分からない。