音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

回りの空気がガラリと一気に変わった。


頬に降れていた指が離れ、いつものいっくんに戻った感じがする。



「“冬休み”だって言っても、宿題はあるんだから風邪引いて最後まで残すのイヤだろ?

風呂入って、今日はさっさと寝ろよ」


「う、うん…… わかった」


「じゃーな」


……………。


ちょっと待て!
さっきまでのあの雰囲気だったら、普通。


「好きだ」


こう言って、告白してくるもんじゃ無いの?
なのに『早く寝ろ』って……



「意味分かんないッつーの!」


いっくんのちょっと広くて大きい背中が遠くを歩いている。


さっきのは、何?
告白…… って訳じゃ無いもんね。


告白よりも、あたしは。
『好き』の『す』の字も言われていない。


それでも……
いっくんは、あたしを…… 好き、なの?