理由が分からない。
何回か泣いて、抱き締めてくれる事はあったけど。


さっきのは今までと何か違う……



「理由がなきゃ、抱き締めちゃいけないわけ?」


「当たり前でしょ!」


あたしはいっくんの彼女でも、なんでも無い。


「あたしたち。
“幼なじみ”…… でしょ?」


「……… “違う”って、俺が否定したら」


『幼なじみ』のどこを否定するの?
あたしたちは、ずっと仲の良い『幼なじみ』だったじゃん。



「理由があれば、抱き締めたっていいんだろ?」


「正当な理由なら……」


暗い中でもわかる、いっくんの真っ直ぐなその視線からあたしは反らせない。


「いっくん……」


「……… まお」



――― ジャリッ。


いっくんがあたしに一歩、近付いた。


それに合わせるように。
あたしも一歩、下がった。

――― コトン。