音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「何か欲しい物とかある?」


「特に無いなー。

早く中に入らないと風邪引いたって知らないからな」


じゃあ、何が欲しいか言って!
そうしたら、中に入るから。



「だから、気持ちだけで……」


「ダメッ!」


あたしが納得しない。
いっくんには沢山お世話にもなったんだからさ。


こういう機会がなくちゃ、お返しできないもん。


「はぁー、しょうがない。 じゃあ……」


おっ! とうとう言う気になった?


何だろう、あたしに買える程度の物かな?
買えそうになかったらちょっと考えさせてもらおう。



「ちょっと、こっち来い」


手招きをしてあたしを呼び寄せた。


そして、いっくんの前に立った。



「何?」


「俺の欲しい物、くれるんだろ?」


改めて何を言っているんだろう。
さっきからあげるって言っているじゃん。


「じゃあ、ちょうだい」


「えっ……ちょっと!
――― !!……」