音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

いっくん的にはやっぱり理央ちゃんに会いたくないかな?


わざわざ今、会わなくたってご飯の時に会うもんね。



「会っとくよ」


「大丈夫?」


「大丈夫だし」


そっか、いっくんが『大丈夫』って言うんだから大丈夫か。
二人で階段を登って、理央ちゃんの部屋の前まで来た。


――― コンコンッ。


「理央ちゃん?」


「いるよ」


意を決して、理央ちゃんの部屋のドアを開けた。


「ただいま」


「まおちゃん、おかえり。
あっ、樹くんもおかえり」


……… 意外と普通かも。


「樹くーん、宿題助けてー」


……… ちょっと待て!
ここにお姉ちゃんがいるのに、どうしていっくんを頼るの?


いっくんだよ? いっくん。


「まおちゃん、電卓貸して?
数学の宿題で使いたいから」