音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

いっくんが名前で呼ぶのって少ないはず。


ラッキー!
結構、貴重な情報が手に入った。



「まだ…… 樹くんが好きなの」


「うん」


「でもね、いっくんの片想いの相手には絶対…… 勝てないの」


そんなにも、その子はいっくんを占めているんだ。
誰にも邪魔できないってことなのかな?


「それでも、スキなの」


そう言い終わったら。
また、一段と強く抱き着いてきた。


スキって気持ちはそう簡単には離れていかない。


「スキなら想い続けたっていいと思うよ。
いつかさ、いっくんの片想いが実らなかった時に、理央ちゃんにチャンスが来るかもしれないしね」


「絶対にチャンスが来ないと分かっていてもいいの?」


そう決めつけなくても……
もしかしたら来るかもしれないのに。


「あたしにはチャンスは来ないよ」