音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「樹くん。
昔からその子だけずーっと特別扱い。

今だってそうだよ。
何があっても樹くんはその子だけをいつも見ていてね、助けてあげているの」


へー、あのいっくんが片想いの子には特別ねー。
なんだか意外かも。
あたしにはいつも『バーカッ』って言うんだもん。


その片想いの子にはそんな事言わないんだろうな。


「いつも羨ましかった。
樹くんがその子中心で回っているみたいで」


絶対、その片想いの子中心だって!
いっくんの片想いの相手か……


どんな子なんだろう。


理央ちゃんも知っているって事は、あたしよりも年下?



「“理央ちゃん”って呼んでもらえるのが嬉しかったけど…… 同時に、寂しかった」


「どうして?」


普通なら名前呼ばれるって嬉しい事じゃ無いの?
あたしなら好きな人に呼ばれるだけで嬉しいのに……


「その…… 片想いの子も名前で呼ばれていたから」