初夏を感じさせるような風を切って、いっくんはどんどん自転車を進めていく。


あたしはいっくんの後ろに乗っているから、あまり風が当たらないから…… ちょっと残念。



「ねえー、これからどこに行くのー?」


「内緒ー、まおは大人しく乗ってろー」


いっつもそうだ。
この間の映画の時だって、映画館に着くまで教えてはくれなかった。


そして今日も。
ちょっと位教えてくれたっていいのにっ。


いっくんのケチッ。


早くしなきゃアイスが溶けちゃうよ。
それにジュースは温くなっちゃう。



「いっくん……」


「ん、何だ」


「ただ呼んだだけー」


田植えが終わり、小さなイネがユラユラ気持ち良さそうに光輝きながら揺れている。


あたしはそっといっくんの背中に頭を預け、そっと目を閉じた。


こうすると、聞こえるんだ。
鳥の羽ばたく音、高速道路を走る車の音、イネの揺れる音、風の音。


普段聞き逃しそうな音が耳を捉える。