音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

そうなんだよね。
耳鼻科なんだよ、耳鼻科……


聴力が下がっていない自信はあるけど、なんだか行くのが怖くて。


――― もし、下がっていたら。


そんな事を考えちゃう。
考える必要が無くても、思考はマイナス方向まっしぐら。



「ウジウジしたってしょうがないだろ?
さっさっと帰れッ」


ひっどーい!
もっと優しい言葉をかけられないの?


『大丈夫だよ』

『下がっていないよ』


さっさっと帰れッだなんて、あたしが邪魔みたい。


こっちは不安なのに。



「俺のケー番知っているんだから、何かあったら掛けてこい」


「いっくんには掛けないもん。
陽太くんに掛けるから」


さっさっと帰れッて言ったくせに電話しろですって!?


絶対、電話なんかしません!



「もう、帰るっ!
バイバイ、陽太くん」


「バイバイ、まおちゃん」


ふんだ。
いっくんにバイバイなんて言ってやらない。