音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

いっくん、どこか行くの?
バイト無いのかな?



「陽太くんはこれから部活?」


「そっ、やっとテストも終わった事だし」


大変だな。
テストで疲れているって言うのに、その後に部活とか……


あたしには絶対無理!


今日はゆっくり休みたい。



「陽太ー」


「おー、今行くって。

ごめんね、まおちゃん。
今日の放課後は樹をちょっと借りるわ」


「どーぞ、どーぞ。
使えるか分からないけど、じゃんじゃん使ってやって」


バスケの練習試合が近いのかな?
だからいっくんは助っ人?


どちらにしても、いっくんはあたしのモノじゃないから陽太くんにバンバン使って貰おう。


じゃなきゃいっくんがもったいない。



「じゃ、お言葉に甘えて……
“使えるか分からないけど”使うよ」


「ん、よろしくね」


どうして、後ろの気配に気付かなかったんだろう。
音も近づくなんて忍者みたいなことしないでよ。


「だれが“使えるか分からない”んだ?
まお、誰かな?」