音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

はっ…… 何言っているの。


「俺が気付いていないとでも思ったわけ?」


もしかして、ずっと気付いていたの?


映画が終わった後は明るくなるからどうしてもヘッドホンは回りから見えてしまう。


「バカにすんなって。

つーか、俺は何言われたって平気だし。
まおが耳が聞こえないのはしょうがないだろ?
まだ治療中なんだから。

それに難聴の人が映画を見てはいけないって決まりはどこにもないだろ」


言っている事は…… まあ、正しい。


治療中なんだかまだ耳が聞こえないのは当たり前。
難聴の人が映画を見てはいけない…… そんな決まりはどこにもない。


「よく考えてみたらそうだろ?」


そうだけどさ……
やっぱり、気になるじゃん。


――― 回りの目って。


今だって、出口に向かう人の流れに乗って動いていけど、回りは人!人!人!!


あたしたちの会話が聞こえているんだよ。