音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

退院明けに教室に入った時と同じ様な視線が…… 痛い。



「人の話し聞いていてんのか?」


「聞いているよー」


「迷子になるんだから握ってろよ、ほらっ」


あたしの右手を掴んで、裾を握らせてきた。


「迷子のまおを探すこっちの身にもなってみろよ。
結構大変なんだぞ、この人混みからまおを探すのって」


……… でしょうね。
人を探す時って、どうしてもみんな似たような格好に見えてしまう。


人が多いから思うように動けないから大変なんだよね。


「だから、はぐれないように握っていろ」


「……… ヤだ」


イヤだよ。
いっくんまであたしと同じ様に見られるなんてイヤだ。


あたしの事はいっくらバカにされようが、何言われようが耐えられる。


でも、一緒にいるいっくんまで言われるのだけは絶対に耐えられない。



「ったく、だからさっき“ヘッドホン貸せ”って言ったのに貸さないから悪いんだろ?」