音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

左耳についているヘッドホンを少しずらした。


「いっくん、スゴいよ!
曲が流れている。
おもしろーい」


「はははっ。
それはよかった」


いっくんってこんなのがあるだなんて知っていたんだ。


このヘッドホンをつけていたら『聞こえずらい』って事は無くなるのかな?


テレビだったら音量を上げると回りに迷惑が掛かるけど、このヘッドホンなら自分だけだから回りに全然迷惑掛からない。



「なんか“補聴器”みたいだね」


「そう言うのに近いんじゃないか」


ちょっと不安とかあったけど……
このヘッドホンのお陰でいっくんが全部取り除いてくれた。


「ほら、始まるぞ。
それつけて大人しく見ていろ」


「はーい」



一気に暗くなったシアター内。
隣にはいっくん。
耳にはヘッドホン。


2時間の上映はあっと言う間に過ぎた。