音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

シアター入り口が開き、あたしはいっくんのちょこちょこ付いていった。


親鳥に付いていくヒナみたい。



「まお、こっち向いて」


「ん、何?」


「はい、これ」


ヘッドホンじゃん。
そういえば、チケット買う時に借りていたね。


もしかして、これを使うのって…… あたし!?


「ヘッドホンを耳の位置に合わすからこっち向け」


「別に自分で出来るよ」


「いーから、いーから」


全くよくないから!



「髪は耳に掛けるから」


顔が…… 顔が近すぎだよ。


そんなに近づかなくたって髪を掛けられるはずだ。


サイドの髪を少し残して、残りを耳の後ろにそっと掛けた。


こめかみの辺りから耳に掛ける分だけの髪を指に外側に乗せ。
耳の裏を通って毛先まで優しく落ちていく、いっくんのその指使いに……


心臓が爆発しそう。