音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「はい、ここ座って」


また端から端まで並ぶポスターの前のイスとテーブルに戻ってきてしまった。


まだまだ、時間がたっぷり。
20分はあるんじゃないかな?



「まお、口開けて」


口?
何かくれるのかな。


あたしはゆっくり口を開いた。


「――― んっ」


「アメあげる」


あっ、このアメ。
あたしの好きなアメだ。


最近、コンビニで見掛けないんだよね。
スーパーにしか売っていないのかな?


コロコロピンクのアメを舌の上で転がしていると、自然と耳の痛みも柔らかくなってきた。


口の中いっぱいに広がるイチゴミルク味。



「いっくん、アメ終わった!
もうないの」


「いや、まだあるけどいるか?」


「うん!」


家に帰ってピンクのお菓子ボックスには沢山あるけど。
今日は持ってくるのを忘れてしまった。


持ってくれば良かったな。