音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「いっくーーん」


「まお、大丈夫か?
ごめんな、早く気付いてやれなくて」



ううん、そんなの気にしていない。
いっくんの声が聞こえればそれでいい。


――― それで、いい……


「どうする?
もう、今日は帰るか?」


帰るって……
映画見ないの?
せっかくいっくんがこんなにも準備してくれたのに、あたしがそれを全部ムダにしちゃっている?



「耳が痛いなら辞めておいた方がいいだろ?」


ヤダヤダヤダ。
いっくんと今日一緒みたいの。


だから帰りたくない。


あたしは首を横に振る。


「でもな、まお。
映画はいつでも見れるかもしれないけど、やっと退院して少し安定しているのを今、崩すわけにいかないだろ」


いっくんの言っている事は正しい……


それでも、あたしは『帰る』だなんて言いたくない。


「な、まお。
またにしよう。
今日は帰って休もう」