音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

強く目を閉じて、いくら首を振っても無意味かもしれない。


でも、いっくんに気付いて欲しい。



――― 助けて!


トントンと何かが肩に触れた。


そして、目の前に差し出された携帯。


【どうした?】


ただ、これしか書かれていない携帯をあたしは受け取り続きを打つ。


【耳痛い。
もう出たい】


一番、手っ取り早く伝えられる方法。


これで伝わった?


もう、一緒に出ようよ。


こんな所、ただ苦痛しか感じられない。




その時、いっくんの手が背中に回りあたしの背を優しく押してくれた。


もしかして……
伝わってくれたの?


だから外に向かっているの?


「まお、大丈夫か」


自動ドアを潜り抜けたら、やっといっくんの声が聞こえた。


「……… いっくん」


「大丈夫かっ」


良かった……
良かったよ。


いっくんの声がちゃんと聞こえる。