音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

――― キキキー。



「きゃっ」


どうしたの、急にブレーキなんか踏んで。
何かあったの?


思いっきりいっくんの背中に抱き着いちゃったよ。



「いっくんどうしたの?」


「……… 今の、何なの?」


「今のって?」


いっくんは正面を向いているから顔がよく分からない。


でも、耳は赤い。


どうしたのかな?



「その……最後に言ったやつ」


「最後?」


最後に言ったのがどうしたの?
最後っつ言えば……


「“大スキ”ってやつ?」


「そうだよっ!」


「大スキ……
その後は、いっくんのそういう優しいところ」


「………… はっ!?」


今まで前を向いていたのに、急に振り返った。


何か問題でもあった?


あたしいっくんのその優しいところはスキだな。


普段は意地悪や命令ばっかりだけど、困ったら絶対助けてくれるもん。