音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「どうぞ、お乗りください」


本当は歩こうと思ったけど、せっかくだから乗っていこ。


口角をクイッと上げているのはムカつくけど。



「ちゃんと捕まっていろよ?」


「うわぁ!!」


もー、急に動き出しからビックリしたじゃん。


いっくんの広い背中にそっと頭を着けた。


「なんか、汗くさーい」


「あー、昼休みにバスケしたからな」


バスケか。
いっくんはバスケ得意だもんね。


あたしはバスケより野球が好き。



「ゆっくりでお願いね。
痛いの嫌いだからね」


「分かってるっつーの。
ごちゃごちゃ言わずにちゃんと、腰掴んどけよ?
落ちても知らねぇからな」


お、落とさずにお願いします。


腰を強く握り締めて、汗臭い背中に頭を預けた。


あたし……
この背中に守られていたんだ。


優ちゃんとリカちゃんが言っていたことを思い出した。