音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「可愛くないやつだな、全く」


そんな事、言われなくたって分かっていた事だもん。


わざわざ言わないでよ。


何、携帯を取り出しているの!!


「もしもし、先輩ですか?
俺ちょっと“バイト遅れる”んでよろしくお願いします」


ちょ、何勝手に電話しているの!
それに『バイト遅れる』って、もう遅れて行く気マンマンじゃん。


「今の電話聞いただろ?
バイトはなんとかなったから次はまお。
後ろ乗れ、家まで連れていってやる」


「……… ヤだ、痛いもん」


あたしの為にバイト遅れないで。
今から行けばギリギリ間に合うよ?



「バイトの事は気にするな。
それにゆっくり走るから、な?」


な? って可愛く首を傾けてもダメなものはダメ。


「まお、この間みたいに怒鳴られたい?
いつまでも乗らないようなら怒るかなら」


チラッと目の前に立ついっくんを見上げた。


目が本気だ……
笑ってはいるみたいだけど、目は笑っていない。
ここは大人しく甘えよ。


シャツをクイクイっと引っ張った。


「乗せて……」