音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

やっぱり返事は素っ気ない。


それがいっくんだもんね。



「じゃあね、いっくん。
早くしなきゃバイト遅れるよ?」


4時50分。


いくらいっくんが早く自転車を漕いでも、5時からなんだか急がないと間に合わないよ?


「後ろ乗る?」


「いらない、痛いもん」


一度乗ったけど、あの時は本当にお尻が痛かったな。


だからもう乗らない。


それにあたしを送っていってくれるみたいだけど、そんなことしたらバイトに遅れるからいらない。



「あたし、歩いて帰るからいっくんはバイト行きなよ」


自転車に乗ってあたしの前にいなくていいよ。
早くしなきゃ本当に間に合わない。


あたしのせいでいっくんが怒られるのイヤだよ。



「手のかかるやつだな。
後ろ乗っていけ、家まで連れていってやる」


「要らないって言っているじゃん。
早く行かなきゃ怒られるよ」


本当に行って?
あたしのせいで…… あたしの知らない所でいっくんが怒られて欲しくないの。