音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

左耳から聞こえる呼び出し音。


おかしいな、電話に全く出ない。


普段ならこの時間は家に居るはずなのに、どうしたのかな?


家に掛けても出ないって言うことは……
出掛けている?


携帯にも掛けてみよう。



「お客様のお掛けになった……」


どうしよう。
携帯に掛けたら留守電になっちゃった。


ママー。
帰りは電話してって言ったのママだよ?


なのに、どうして電話に出てくれないの?


うぅ……
ママが電話に出ないのはしょうがない。


「……… 歩いて帰ろ」


自転車だって無いんだ。
あたしが家に帰る手段はもう歩きだけ。


「まお、どうしたんだ?」


「いっくん……」


自転車に乗って、ベンチに座るあたしの前にいる意地悪ないっくんがなんだか今だけ神様のように見える。



「まお?」


「ママが電話に出ないの……」


「ふーん、そうなんだ」