音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「それじゃあ、いっくんはバイト頑張ってね」


「おう、サンキューな。
……… まおは帰らないのか」



あたしたちは駅のベンチの前。


あたしは電話掛けなきゃいけないからここで座って待とうと思って立ち止まったら、いっくんまで立ち止まってしまった。



「今朝は車だったからこれから迎え呼ぶの」


「あぁ、そう言う事か。
じゃあな、今日“も”よく寝ろよ」


「うん、ありがとう……?」



ちょっと待って。
今のいっくんの言葉っておかしいよね?


『今日も』って言ったよね。
もを強調したよね。


それって……


「あたしが普段よく寝る子みたいな言い方じゃん!」


「普段からよく寝てるだろ?
ま、いいや。
じゃあな」


「バイバイ」


いっくんは自転車置き場の方へ、歩いて行った。


なんだかバカにされたみたいだけど……
ま、いいや。
一々相手にしていたら疲れちゃう。
じゃなくても疲れているって言うのに。