音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

「ダメだッ!!」


どうしてダメなの!
そろそろ電車が発車するから、ほんの数十分だけじゃん。


「いっくんのケチ」


「ケチじゃ無いっつーの。
バーカ」


ムカつく。
絶対あたしの言った事に対して反撃してくるから、あたしの勝ち目が無いよ。



「ったく、しょうがねーな。
話し相手になってやるよ。
だから寝るなよ」


「えー、ヤダー。
話すより寝たい」


「時間と場所を考えろ」


うわっ、その言い方ムカつく。
なんだか先生みたい。


あーあ。
なんだかもうしょうがないか。


諦めが肝心だよね。



「今日ってバイト?」


「そっ、バイト」


ふーん、そうなんだ。
いっくんも大変だね。
シフトって5時~8時までだっけ?


あたしにバイトはムリかな?
倒れちゃいそう。


でも、いつかやってみたいな……
――― バイト。



地元駅に着くまでの数十分。
いっくんのバイトの事を聞いていたらあっという間に着いてしまった。