音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

『俺のも見たのかよ』


目を細めて、笑っているいっくんが浮かんできた。


「見たに決まっているじゃん。
110円でしょ、退院したらちゃんと返すから」


『1枚くらい励まし意外のやつがあってもいいだろ?

今まで頑張って来たんだからこの時とばかりに沢山休め』


いっくんの言葉は、命令的でムカつくけと……
あたしの体を一番考えてくれている言い方。


『春休みだって相当辛かったんだろ?
今は学校の事も忘れてしっかり休め。

だけど、俺の110円は忘れるなよ』


「忘れないよ」



110円、110円ってしつこいな。


忘れずにちゃんと返すんだから待っていてよ。



『8時30分だし……そろそろ消灯になるだろ?』


「うん。
たぶん、看護師さんが電気消しに回ってくる」


『じゃあ、お休み』


「ん、お休み」