音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

でも『手伝う』と言った以上はやらなくてはいけない。


始業式から席替えをしていないあたしのクラスはいまだ席順は名簿順。


プリントを上から取って机に置くだけだから直ぐに終わる。


1枚、1枚置いていくと……現れた名前。


『前田 樹』


いっくんにだけ渡さない……って訳にもいないよね。



今は、授業と授業の中休み。


宿題をやっていない人が友達に頼み込んでノートを借りている人。

午前中の授業も残す所、あと1時間だけどお腹が空いてお菓子を食べる人。

机に突っ伏している人。

お喋りをしている人。


みんなそれぞれの事をしていて、様々な声が飛び交っている。


その中、あたしは意を決していっくんの席へ向かった。


いっくんの席にはやっぱり今日も陽太くんがいる。


本当に二人は仲が良いみたいで楽しそうに笑っている。