音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~

それから何日もギクシャクした関係が続いた。


校門前の桜の蕾が春の暖かい陽気に誘われて少しづつ大きくなり始めているのに……
あたしの心は真冬のように寒い。


元からいっくんが学校であたしに話しかけることはほとんどなかった。
でも、たまに目が合う事があったのに……。


今は、目すら合わない。


あたしなんて視野に入っていないような感じだ。



でも、そんなある日……


「もう、1番って最悪。
早く席替えしたいんだけど」


「まあまあ、先生だって悪気があるわけじゃないんだからさ。
あたしも手伝うから早くやろ?
“プリント配り”」


国語の時間にやった小テストの返却を優ちゃんが頼まれた。


返却……といっても列ごとになっているから楽チンなんだけどね。



「まおは後半の方をお願いね」


「えっあっ……うん」



『後半』


どう考えたって後半の方には『いっくん』がいる。


ここ何日もいっくんと話していないし、目も合わしてもらえない状況だから……


いっくんに近づきたくない。