音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~





いっくんにまだ“難聴―――” と話していない。

いっくんが聞きたいのはあたしが“難聴―――” だって事だと思う。


でも……。


「何もないよ。 あたしが隠し事をするわけないじゃん」


――― あたしは嘘をつく。

ゴメンね、本当は隠している。

もしかしたらいっくんに話した方がいいのかもしれないけど――― 今は話せない。


「お前、俺が気付いていないとでも思っているのかっ」


いっくんの言葉は次第に怒気が強くなる。


「だから、なんの事? いっくんの言っている意味が分からないよ?」


こんないっくんは初めて。

再会して1年が経つけど、こうやってあたしに向かって言ってきたことが今までなかったのに……。

どうしたの、急に?


「いっくん、なんだか変だよ? いっくんこそ何かあったんじゃない?」


家で何かあったのかな?

それとも学校?

学校では色々な人たちに囲まれて結構楽しそうにしているように感じたけど――― 違った?