音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~





「あぁ、そうだ…… まお?」


「なに?」


首だけ後ろに向けていっくんが話しかけてきた。


「今夜、まおん家だから」


「わかった」


夕ご飯は、いっくんも一緒かー。


共働きの両親をもついっくんは、両親の帰宅が遅くなりそうな時はいつもあたしの家でご飯を一緒に食べる。


男の子がいない木下家はいっくんが夕ご飯を食べる日はいつもより豪華な食事になる。


いっくんが引っ越してきて以来、月に2、3度は一緒に食べている。


「今日、バイトは?」


「なし」


バイト、今日は無いんだ。


だったら家に来るのは5時00分位になるかな?

…… だったら、勉強でも教えてもらおうかな?

テストも近いし……。


英語なんて、全く分からない。


英単語がすき間なく教科書に並んでいる文を日本語に訳す……とか全然出来ない。


単語の意味が分かっても上手く日本語にまとめることが出来ない。


よくあれで会話が成立していると思う。