時間屋


「…名字なんか…いらない」


唇を噛み締め、そう呟いた俺に、先生はそっか、とだけ言った。


「空雅くんがそれでいいなら、先生は何も言わない。…じゃ、ご飯にしよっか!」


そう言って、先生が俺に背を向けた瞬間、俺は首に掛かっているペンダントを握った。


物心ついた頃には、首にかかっていたペンダント。


俺はそれを、宝物のように扱っていた。



お昼を済ませ、俺は施設の外に散歩に出た。


近くの寂れた公園のベンチに座り、首からペンダントを外して眺めていた。



その時だった。



足音がして振り返ると、見知らぬ男が立っていた。


「…誰?」


眉をひそめ、そう問いかけた俺に、男は笑みを浮かべた。


「それ、金になりそうだなぁ」


「え?……あっ」


信じられないことに、男は俺の手からペンダントを奪い取り、走って逃げた。


「待って…!」


俺は走って追いかけた。


8歳の子供が、大人の足に追いつけるわけがなかった。



男を見失い、さらに道をも見失った俺は、途方に暮れた。