俺だって、話すと言った自分に驚いていた。
俺の過去を知っているのは、華子さんと梶先輩だけだ。
…けど、何でか志乃に話してみたくなった。
俺はゆっくりと話し始めた。
そう、あれは俺が8歳の時―――…
俺は物心がつく頃から、施設で生活していた。
両親の記憶なんか、何もなかった。
覚えていたのは、自分の"空雅"という名前だけだった。
ある日、施設の先生が遠慮がちに俺に言った。
「…空雅くん、ご両親がわかったの」
「………」
子供ながらも、衝撃を受けたのを覚えている。
「今は別々に暮らしてるらしいんだけど…どうする?」
「…どうするって?」
「ご両親のどちらかと…暮らす?」
普通なら悩むところかもしれなかったが、俺は即座に首を横に振った。
「………やだ」
先生は困ったように俺を見た。
「じゃあ、空雅くん。とりあえずご両親のどちらかの名字を貰っておこう?」
…名字。
俺を捨てた両親の名字なんか、いらなかった。


