「伊坂先輩って、この大学じゃ、けっこう有名だぜ」
「なっ、なんで?」
「なんでって…それは…」
和輝が伊坂先輩と呼んだ男を気にするように、チラっと盗み見て答えを濁す。
実は、俺はこの男の苗字を知らなかった。
名前だけは、あの時『俺の事、聖治って呼んで』って、これまた甘ったるい声で言っていたから知っているけれど。
「悠斗、俺がいる時は、俺だけを見て」
言葉を濁し続ける和輝に代わって、伊坂が口を開いた。
ヒクリと顔が引きつった。
「バッ、バカな事言うな!大体俺は、おまえと関わる気はない!」
「俺は絶対に悠斗をモノにするよ。でも今日はこれから授業だから残念だけど、またね」
ニッコリと微笑んで去っていく伊坂の後ろ姿を呆然と見送る。



