「で、その後どうしたの?」

「何とか人通りの多い通りに出て事なきを得ました」



何の変哲もない火曜日の朝。
喋り声でざわつく教室の窓側の一番後ろ。

つまりあまり人目につかない所で私は奈瑚に昨日のことを話していた。

ふーん、と奈瑚は頷きながら長い脚を悠々と組んだ。
腕を組みながら私を見て眉をしかめている。

どこの女王様だよ。


「……あのねえ、真花」


奈瑚がため息まじりに言った。
私はこれから言われることを何となく予想しながら答える。


「なんでございましょう」

「あんたこれで何回目?高校入ってから少なくとも30回はあるわよね」

「その通りでございますね」


奈瑚のお化粧ばっちりの目がぎらっと鋭く光った。

おおぅ、迫力あるな。


「いい加減学習しなさいよ! 何でわざわざ一人で出歩くの!?」

「ごもっとも……!」


私は平謝りの姿勢で奈瑚に頭を下げた。
ふんっ、と奈瑚が鼻を鳴らす。

私だって別に一人でふらふら出歩きたくて出歩いてるんじゃない。
だけど……、だけどウチの馬鹿兄が!

悔しくなって私は下唇を噛む。

あんのクソ兄貴。
思い出した今でもむかつくぜ。



「まあ原因は隆次さんなんだろうけどさ」

「そうなの! その通りなの!」


私がばっと勢いよく顔を上げると、奈瑚は「暑苦しい」とひとこといって顔を逸らした。


そりゃねえよ、奈瑚さん。
私ら一応10年以上の付き合いの幼なじみだろう?

私はがっくりと項垂れた。