おい、このまま彼女を帰してしまっていいのか?


すごく惚れてた訳じゃない。


長い片思いをしてきた訳でもない。


それでも。


こんな日に、こんなタイミングで出会ったら…


何か運命めいたものを感じてしまうのは、俺だけか?


あの扉が開いて、彼女が出て行ってしまえば、もう呼び止める事は出来ない。


幸運にも、今お店の中にいるのは俺と彼女だけ。


俺の想像する、都合の良い奇跡なんて起きやしなかったけど。


少しのキッカケがあれば…


彼女の事を。


呼び止める?


呼び止めない?


気付けば俺は拳をぎゅっと握り締め、声を上げていた。


「あのっ…」


そんな俺の声とほぼ同時だった。


いきなり立ち止まって、少し緊張した面持ちで振り返った彼女。