「行くなよ」


四日目に愛しい人の隣で見た空は、まだ明けない朝の色だった。


薄暗い部屋で、クロチェ国親衛隊の制服に着替えたシェナをリューシュが後ろから抱き締める。


「リューシュ様。わたしは一介の女兵士です。所詮は一夜の相手にございます」

「一夜の相手? ふざけんなっ! 俺はそんな適当な気持ちでおまえを抱いたんじゃねぇっ」


身を翻し、いつもの無表情をしたシェナが淡々とリューシュに述べていく。


その姿がまるで、昨夜のことは無かったことにするかのような態度に思えてリューシュは思わず声を荒げた。


例え身分や国が違っても、無かったことなんかにはさせたくなかった。


「……わかっています。一夜の相手を抱けるほどあなたは器用な人じゃない」


予想通りのリューシュの反応にシェナは、安心したように微笑んで見せた。


自分だって離れたくはない。
やっと巡り会えた愛する人。


ただここで、自分の本心を言ってしまえばリューシュはきっと無茶をしてしまう。


そんなことは絶対にしたくない。

自分のせいで大切な人間が傷付くのは、もう見たくなかった。


「わたしの心を永遠にあなたに捧げます……わたしが初めて愛したあなたに」


そしてそっと、切ない表情で自分を見つめるリューシュに口付けを残した。