夏木は、大人しくクッキーを持ったまま、微動だにせずに、あたしの歌を聞いていた。
「おめでとう」
歌い終わってそう言ったあたしを、夏木はじっと見つめる。
「なに」
「………」
夏木の視線が照れ臭くて、ちょっと突っかかってみた。
が、見事にスルー。
コイツ目開いたまま寝てるのか?とあたしが疑い始めたあたりで、小さく夏木の唇が動く。
それは確かに、こう言っていた。
“サンキュ”って。
「はい、じゃあこれプレゼント」
「…うわ、いらねー」
あたしが差し出したのは、カバンに入ってた飲料水のオマケ。
小さなテディベアのキーホルダーだ。
実はそれが欲しくて買ったんだ。
夏木はいらねーなんて言いながら、ちゃんと受け取ってくれた。
何度も何度も眺めては、顔がブサイク、とか文句を言う。
あたしはいちいち反論しながら、それでも、温かい気持ちが後から後から溢れだして、自然と笑顔がこぼれた。
