中沢さんはカクテルを1口飲むと、あたしを見た。

「あれ?

初めて見るね」

中沢さんが言った。

そう言えばと思った。

よくここにくるけど、会うのは今日が初めてだった。

「そうですね」

あたしは目を反らすと、芯を見た。

芯はあたしの視線を無視するように、グラスを磨いていた。

「学生?」

「そうですけど、何か?」

「何年生?」

「大学の、3年です」

「大学生か」

何が言いたいのよ、この人は。

「名前は、何て言うの?」

聞く必要ないだろ。

そう思いながら、
「雪、島本雪(シマモトユキ)」
と、あたしは名乗っていた。

「雪ちゃんか」

中沢さんはカクテルを口に運んだ。

1口飲むと、
「俺は、中沢直樹(ナカザワナオキ)」
と、中沢さんが言った。

「ふーん」

あたしは答えた。

自分でも、愛想がないとツッコミたくなるくらいの答え方だと思った。

中沢さんはこらえるように、クスクスと笑った。