「雪?」

振り返ると、中沢さんがいた。

「店、行ったんじゃないんですか?」

「行かなかった」

「えっ?」

「さっき、雪が出て行くところを見たから」

後を追ったんだ。

この前のあたしみたいに。

「家、くるか?」

中沢さんが言った。

えっ?

「奥さん、いるんじゃないんですか?」

中沢さんは悲しそうな顔をすると、
「あいつは、今日も夜勤だ」
と、言った。

「そうなんですか…」

せっかくつきあうことになったのに、何を言ってるんだろ、あたし。

「変なことはしないから。

ただ、一緒に飲みたいんだ」

中沢さんが言った。

「じゃあ…行きます」

あたしは、返事した。


期待は、してなかった。

ただ、芯の告白に、胸が痛んでいた。

ソファーの胸に座っても、芯の顔が離れなかった。

あんな悲しそうな芯の顔、初めて見た。

冗談でも何でもないと言うような、芯の悲しい顔。

何も、言えなかった。