「今日は、きたんですね」

あたしが声をかけると、
「仕事が忙しくて、来れなかったんだ」
と、中沢さんが言った。

仕事か。

あたしはちょっと、安心した。

また奥さんのことだったら、どうしようと思ってたから。

芯が中沢さんにカクテルを差し出した。

初めて中沢さんと会った時に飲んでいた、甘そうなピンクのカクテル。

1口飲む。

「飲みますよね、それ」

あたしは言った。

「まあ、好きだからね」

好き。

カクテルのこと、よ。

「甘くないですか?」

「甘いよ?

飲んで見る?」
と、中沢さんがカクテルを差し出してきた。

間接キスだと、あたしは思った。

けど中沢さんが触れたところは避けて、飲んだ。

「甘い、ですね」

予想通り、カクテルは甘かった。

中沢さんは少しイタズラっぽく笑うと、
「甘いのは嫌い?」
と、聞いてきた。

あたしは首を横に振り、
「全然」
と、答えた。

“酒飲みは甘いものが嫌い”なんて、よく言うけど、ウソだと思う。