another contract


「なんで雇われたんだ?」
「え?」
「嫌なら雇われんなよ、ってか、辞めろよ」
「‥‥」

気にしてくれてたんだ‥なんか、申し訳ないな。

紅さんは複雑な表情をして、私に鋭い視線を向けた。
断れるものなら断って、普通の生活に戻りたい。
でも、それは出来ない事。
だって‥‥



“餌”だから。



「私の一族は昔から“吸血鬼”の“餌”として生きてきました」
「‥‥」
「だから、私は断る事なんて出来ないんです。逆らう事なんて出来ないんです」

そう言い切った私に、紅さんは瞳を大きく見開いた。
やっぱり、“吸血鬼”と“特別”な存在の事や“餌”の事を旦那さんから聞いたりしていなかったんだ。

「‥‥でも、こんな生活は嫌なんだろ?」
「‥‥ゴメンなさい‥‥」
「誤るこたぁねぇよ」

俺だって、お前みたいな生活なんてゴメンだ。

そう言って、自分から目を逸らす。
グッと拳を握っている手が目に入った。



あぁ、自分がこの人をこんな気持ちにさせてしまった。



と、大きな後悔が今も勢い良く降り続ける雨の様に、体中を打ち付けている様な気がした。

‥‥ゴメンなさい。

口に出して言うと、更に嫌な気持ちにさせてしまいそうだから心の中で小さく囁く。

「っよし!!」
「どうしました?」
「その傷はどの位で治るんだ?」
「大体‥2週間程で」
「分かった、じゃあ1週間待て」
「え?」
「俺が掛け合ってやる」

ニカッと笑って言う紅さんは、太陽の様に眩しく見えた。
そして、希望を寄せてもいいのかな。という期待が自分の中に染み出て来る。

「お、雨止んだな」
「そうですね」
「やっぱ、晴れてる方がいいぜ。お前も!」

またニカッと笑う彼。
それに心臓が高鳴った気がしたけれど‥

それは、黙っておこう。